中学校 心臓の動きとAED

2023年5月16日

カテゴリ:ショート指導

中学校の「保健体育」の教科書には、心肺蘇生法と一緒にAEDの説明が載っています。
心肺蘇生法と同様、AEDの使い方の説明はあるものの、それがどんな仕組みで心臓に働きかけるのかは書かれていません。
そこで、ちょっとした動作を通して心臓の動きを学ぶと同時に、AEDがなぜ役に立つのかを理解できるようにしました。
「保健体育」の授業で心肺蘇生法を学習した後でもいいですし、学校によっては外部講師を招いての心肺蘇生法講習をすることもあるでしょうから、その後でもいいでしょう。
教科書では学習しない、もう一歩踏み込んだ内容を学習することで、AEDの使用方法理解はもちろん、普段から心臓震盪事故を避けようとする気持ちも育まれるのではないでしょうか。

参考資料 「好きになる生理学」 田中越郎著  講談社サイエンティフィック

 

T:先週、心肺蘇生法講習がありましたよね。皆さん、いざというときにできそうですか?
S:う~ん、無理かも・・・
S:やってはみるけど、自信がない。
S:その場になれば、何とかできると思う。
T:1回講習を受けたらもう大丈夫、という訳にはいかないかもしれませんよね。そういう人は、皆さんの身の回りにAEDが備えられている場所がたくさんあるはずですから、AEDを見たときに思い出してみる、というのもいいかもしれませんね。
ところでAEDは、心臓に電気ショックを与えて心臓を正常に動かす道具ですが、なぜ電気ショックで心臓が正常に動くんでしょう。
S:止まってた心臓が、びっくりして動き出す。
S:よくわからない
T:では、今日は心臓の話です。そもそも心臓は、たくさんの筋肉でできていて、それが動いて血液を押し出しています。今日は皆さんに心臓の筋肉になってもらおうかな。いいですか。では、私がホイッスルを吹いたら右手を挙げてください。では、(ホイッスルを吹く)
S:(全員で右手を挙げる)
T:すごい、ぴったり揃ったね。素晴らしい心臓だ。では次のホイッスルで左手を挙げます。(ホイッスルを吹く)。
S:(全員で左手を挙げる)
T:いいですね。健康な心臓ですね。これを右手、左手の順番で、ホイッスルに合わせて繰り返しますよ。準備はいいですか。では(ホイッスルを何度か吹く)
S:(右手、左手と順番に上げていく)
T:ありがとう。ばっちり合ってましたよ。これが、正常なときの心臓の動きです。つまり、心臓の筋肉は、合図に合わせて同じように揃えた動きをすることで、血液を押し出しているのです。ところが、笛を吹いても筋肉の皆さんが勝手に動いたらどうでしょう。やってみましょう。わたしがさっきと同じようにホイッスルを吹きますが、皆さんはそれを無視して勝手に左右の手を上げてくださいね。では、いきますよ。(ホイッスルを何度か吹く)
S:(勝手にバラバラと動く)
T:はい、ありがとう。心臓の筋肉が今のような状態になってしまったときに、いよいよAEDの出番です。AEDで強い電流を流すことで、勝手に動いていた筋肉が、もとのように揃って動き始めるのです。そうだな、皆さんだったら担任の△△先生から大きな声で「こら~、何やってるんだ!」って怒られるのと同じかな。
S:(みんなで担任の方を見て笑いが起きる)
T:さて、まとめてみましょうか。心臓にはいつも弱~い電気が流れていて、その電気信号に合わせて、つまりホイッスルの役割だよね、そのホイッスルに合わせて筋肉が一定の動きをすることで、正常に働いているのです。ところが何らかの原因で、筋肉が勝手に動き出してしまうと、血液を正常に送り出せなくなってしまいます。そんなときに、AEDを使って普段よりずっと強い電流を流すことで、もう一度心臓に強い合図を送って、筋肉が揃って正常な動きを取り戻すことができるわけです。

どうですか?心臓とAEDの仕組み、わかりました?
S:すごくよくわかった。面白かった。
S:心臓に電気が流れているなんて知らなかった。でも、だからAEDで強い電気を流すんだ。
S:心電図検査の意味もわかった。

T:皆さんのように健康な人なら、AEDが必要になることはほんどないのですが、例外があります。心臓のすぐ近くに、例えば全力で投げたボールが当たったり、非常に強い力で胸を打ったりすると、それがショックになって心臓の筋肉の動きがバラバラになってしまい、場合によっては死んでしまうこともあります。そういった死亡事故も起きているので、皆さんも十分気をつけてくださいね。

母性本能はあるのか(性の学習 中学校3年生)

2023年3月13日

カテゴリ:ショート指導

本能というからには、人間がそもそも持っているもの、特に「母性本能」は女性にのみある・・・・と長いこと言われてきましたが、そんなものはない!というのが最近の研究結果です。
では、一体どこから生まれてきたのでしょうか。
それを、中学生と一緒に考えてみましょう。

なぜ中学校3年生の課題に設定したかというと、これから3年生はいろんなところから集まった人と一緒に高校生活や社会生活を送ることになるからです。
社会の中にはジェンダーがいっぱいです。
それに惑わされないように、基礎的な知識を身につけておいてほしいものです。

また、中学校3年生を対象に、出産や育児に関する「講話」を、外部講師に依頼するなどして行う学校も増えています。
その中で出産や育児の科学的側面は学べますので、残ったジェンダーや人権の部分を補足する必要があります。生理学的な側面だけでは「包括的性教育」にはなりません。そこにジェンダーや人権の視点は絶対に必要なのです。

ポイントとなる数字や文章、単語はカードにして黒板に貼ると、わかりやすくなると思います。

参考文献 「母性という神話」 E・バダンテール著  筑摩叢書

 

(出産や育児に関する講話を受けた後であれば、それを導入にしても構いません)

T:さて皆さん、今日はフランスの話をしたいと思います。フランスって、どんなイメージがありますか?
S:おしゃれな国
S:フランス革命
S:自由な国 
T:なるほど。今はそんなイメージの国ですね。では、少し時間を遡って、1780年のパリに飛んでみましょう。日本でいうと江戸時代の後半、2年後に大飢饉が起きたり(天明の大飢饉)3年後には浅間山が大噴火したりしているし、フランスはフランス革命の9年前です。この頃のパリのこどもたちに関するデータが残っています。パリでは、1年間に2万1千人の子どもが生まれると、そのうち親に育てられる子どもは千人、乳母と呼ばれる子育ての専門職に育てられる子どもが千人、残り1万9千人は、里子といってお金を払ってよその家庭で育ててもらう、という環境で暮らしていたのだそうです。ところが、この里子に出された子どもと親が育てた子どもを比べると、里子の子どもの死亡率が、とても高かったんだそうです。なぜだろう。
S:親が育てないから
S:親じゃないから、ちゃんと面倒見なかったから
T:そうかな?子どもって、親以外の人では育てられない?
S:ううん、育てられる。
S:親じゃないと愛情がない。
T:親じゃないと愛情が湧かないの?
S:違う、関係ないと思う。親だって愛情のない人もいるし、親じゃなくても愛情を持って育てられる。
T:そうだね。子どもを育てられるのは親だけとは限らないよね。養子などで実の親ではない家庭でもちゃんと育つし、施設だって問題ない、大丈夫。いろんな環境で、たくさんの人が育ってちゃんと大人になってるんだよ。実は、パリの里子たちが死んでしまった理由は、里子を預かった家庭のほとんどが貧しい家庭で、1日中働かないと生活するお金を得られないような厳しい条件のところだったんです。働くのに精一杯で、預かったけれど子どもの面倒を見る余裕がなかったんだね。もちろん他の条件もあったと思います。病気になっても当時は原因がわからなかったり、治療法がなかったりしたしね。でも、このこどもが死んでしまうことについて、フランスの人たちは「これはまずい!」って思うようになった。そこでこんなことを言い出した。「神様はあらゆる生き物の心の中に、子どもに対する無意識的な愛をすり込んだ。女は全ての動物たちと同様に、この本能に従う」これを日本語にすると「母性本能」だね。全ての女の人は生まれながら子どもに対する愛情を持っていて、子育ては女性の本能である、ということになるかな。だとすると、子育ては女の仕事、ということになるね。さてどう思います?
S:そうだと思う。女の人の方が子育てに向いている。
S:男は働いているから子育ては無理
T:女の子たちはどう思う?
S:今は父親も子育てするから違うと思う
S:本能はあるかもしれないけれど、一人で子育ては大変。
S:母性本能があるのなら、どうして虐待なんて起きるのかわからない。
T:そうか、本能なら食欲と同じでみんなにあるはずだものね。じゃあ、ないのかな。
S:でも子どもを産むのは女の人だから、育てるのも女の人が向いていると思う。
T:女の人に母性本能があるから?
S:うん
(ここは、時間の許す限り生徒の意見が聞きたいところです)
T:いろんな意見が出ましたね。1780年代に言われた「母性本能」は、270年経った今はどうなっているかというと、女性には母性本能はない、ということが科学的にわかってきました。つまり、生まれつき女の人が子育てに向いているわけではない、ということです。子どもと子育てする人の愛情関係は、一緒に暮らしていく中で育まれていくものだ、と今は言われています。そこに女も男もない。場合によっては血のつながりも必要ないし、集団で暮らす施設だっていいんです。将来皆さんが大人になって、もし自分の子どもを持つことがあったら、子どもとたくさん触れあっていい関係を作っていってくださいね。でも子どもを持つか持たないかは、自分で決めていいことですからね。

3人の友達(性の学習  小学校4年生)

2023年3月13日

カテゴリ:ショート指導

この学習では、本を使います。
いつもいつも自作で教材を準備するのは大変です。でも世間にはいい本、子どもたちに読ませたい本がたくさんありますので、それを使ってショートの性の学習をしてみましょう。
今回使うのは「ジェンダーフリーの絵本② 生きるってすてき」橋本紀子文 高橋由為子絵 大月書店
この本には「みさき町」に住んでいる人々が出てきますが、その中でも前半に登場する3人の小学校4年生に関する部分を読みながら、子どもたちにも発言してもらいます。

ただし、内容が家族や家事に関することですから、家庭の状況で配慮が必要な子どもがいたら、そういった子どもが悲観的にならないよう十分気をつけてください。
でも、逆にそういう環境の子どもたちほど、家族についての学びが必要なのではないのでしょうか。
友達と一緒に学ぶ経験は、重要な意味を持つと思います。

さて、この学習のポイントは3つです。
一つは家事分担についてです。
登場人物の一人「たかし」の家の家事分担が本には紹介されていますから、その部分を読んだら「皆さんのおうちはどんな分担になっていますか」と問いかけて、何人かに発言してもらいましょう。

2つめは「はつき」の家族構成です。家族には様々な形態があり、どれも家族であることを伝えましょう。ここでも「みんなの家族は誰?」と問いかけてください。

3つめは「りょう」の家庭の様子と子育てについてです。
「りょう」の家庭の様子はP12~P15までは家事分担について書かれていますので、P15まで読んだらポイントを伝えてください。
そのポイントはP15の4行目に書いてある「二人(夫婦)で話し合って週二日だけお父さんの当番の日を決めた」という部分です。
そうなんです。大切なのは家族でしっかり話し合って、助け合っていくことです。
「りょう」のおうちではそれができているんだね、と話しましょう。

さらにP16~P21は、「りょう」の家族にあかちゃんがやってきて、お父さんが育児休暇をとり、公園デビューする様子が書かれています。
一気に読んでいき、読み終わってから感想を聞いてみましょう。

さて、小学校4年生は、どんな感想を持つのでしょうか。
ちなみにミルミルは保健室で数人の子どもたちと一緒にこの本を読んだ経験がありますが、多分家では口にしないような子どもたちの本音が聞けて面白かったですよ。

最後に、「いろんな家族やいろんな生き方があるよね。でもどれが正しくてどれが間違っているなんてないんだよ。それぞれみんな違っているのが当たり前だからね」と話をしてください。

中学生 むし歯を防ぐ水「だ液」

2019年11月26日

カテゴリ:ショート指導, その他

新しい小中の保健体育教科書には、「ステファン曲線」を基本にしたと思われるグラフが載ってるものがあるようです。そこで、某テレビ局のような誤解が生じないよう、酸性・アルカリ性が理解できそうな中学生には、ちゃんと説明したいと考え、ショート指導を考えてみました。
ちなみに、「酸性・アルカリ性・中性」は小学校6年生、「PH」は中学校3年生理科で学習します。

T:では、最初に(①)このグラフを見てください。これは、ステファン曲線と言って、あるものを口に含んだ後、口のある部分での酸性度の変化を示したものです。何かを含む前は、口の中は「7」と数字のあるところ、つまり酸性でもアルカリ性でもない、中性です。小学校で習ったよね。
でも何かを口に含んだ後は、中性から酸性に変化していきます。ここに点線がありますね。この点線を下回るとむし歯ができやすくなりますから、何かを口に含んだ後5分くらいたつと一番低くなり、やがて20分後くらいには点線の上に戻っていきます。つまり、この20分間が、むし歯になりやすいんだよ、ということを示したグラフです。
さて、みなさん、このグラフは、何を口に含んだ後のものでしょうか。
S:ご飯だ。
T:お米のご飯を食べた後、という意味?
S:違う。食事をした後です。
T:3食の食事の後、ということかな?
S:そうです。
S:おやつじゃない?
S:ジュースとか・・・。
T:3食の食事と甘いおやつやジュースではかなり違うよね。何が違うかな。
S:砂糖の量が違う。
T:お米の中にも糖分は入っているし、おかずの中にも糖分は含まれています。でもその量は、食べるものによってずいぶん違うよね。このグラフのような結果を出すのは、すごく難しくないですか?
S:う~ん、そうかも。
S:その日によって違ってくるか。
T:だとすればこれは、ある特定のものを口の中に入れた後の実験結果、ということになります。さて、何だろう。
S:ジュースだったら、同じものを飲めば大丈夫だと思います。
S:お菓子でも同じだったら大丈夫だよ。
T:さすが、皆さん!実はこれは(②提示)これを口に含んだんです。代表してAさん、飲んでみて。
S:(飲む)あ、おいしい、甘い!
T:当然。砂糖水だから。10%の砂糖水、つまり(③提示)この500ccのペットボトルの中に(④提示)50gの砂糖が入っている水です。かなり、甘い!
S:なんか、すごいよ、甘くて・・・。
T:つまりこのグラフは、口の中に10%の砂糖水を含んだ後の変化を示したもの、ということになります。もう一つ、質問です。口の中のどこを調べたのでしょうか?
S:えっ、口の中全体じゃないの?
S:わかった、歯の表面。
S:奥歯のかみ合わせ。
S:歯と歯の間。
T:全部言ったらどれか当たるって思ってない?
S:(笑い)
T:ではヒント。むし歯を作り出すミュータンス菌は、どこにいるの?
S:わかった、歯垢の中だ。
T:そう、正解は歯垢の中。しかも4日間歯磨きしなかった口の中の歯垢の中です。
S:4日も?
S:うぇ~、自分だったら気持ち悪い。
S:すごい汚れているってことですか?
T:そうだね、かなりですね。たっぷりと歯垢がついていたかもしれないね。つまり、口の中全体がグラフのようになるという意味ではない、ということになります。では、まとめてみますよ。このグラフは、(⑤)4日間歯磨きをしなかった人が、10%の砂糖水を口に含んだ後の歯垢の中のむし歯になりやすさ、を示したもの、ということでいいでしょうか。
S:はい!
T:3食の食事をした後は、これと同じ結果になるかどうかはわかりません。なぜなら、食事の中に含まれる糖分の量は献立によって違うし、さらにもう一つ、影響を与えるものがあるんです。このグラフで、5分後に一番低くなった後にどんどん中性まで回復しているのは、だ液の働きによるものです。食事をすると、だ液はたくさん出ますよね。ただし、人によって出る量は違います。そのだ液が酸性になっていた歯垢の中を、中性に戻してくれるんです。
こんな実験をした人がいます。(⑥)中性の水の中に、塩酸という酸性の液体を入れたところ、7から2.3まで下がったそうです。2.3だから、かなり強い酸性です。ところがこの人のだ液は中性で7.1あったそうですが、その中に同じように同じ量の塩酸を入れたところ、6.1までしかさがらなかったそうなのです。
S:へえ~、すごい。
S:それならむし歯できないよね。
S:だ液って強いんだ。
T:ただ、食事をした後がこの実験と同じようだとは限りませんよ。だ液の性質は、人によって違うこともありますからね。でも食事の時によくかんで、たくさんだ液を出すと、酸性だった歯垢の中をちゃんと中性に戻す力を、だ液は持っている、と言えるということです。それでも糖分をたくさん含んでいれば、やはりむし歯にはなりやすくなる。皆さんのからだは、こういう自然の働きを持っている、ということです。
S:よくかんで食べよう。

教材
①ステファン曲線のグラフ(インターネットにたくさんありますので、見やすいものを)
②紙コップの中に10%砂糖液を作っておく。
③500ccのペットボトル  何でもよいがラベルははずしておく
④角砂糖、もしくは粉砂糖  50g
⑤まとめを書いたカード「4日間歯磨きをしなかった人が、10%の砂糖水を口に含んだ後の歯垢の中のむし歯になりやすさ、を示したもの」
⑥実験を示した絵・・・この実験は岡崎好秀氏によるもの

 

「わくわく保健指導 1年間」を使って

2018年8月21日

カテゴリ:ショート指導

   この本には、学期毎に26の保健指導と、授業参観用の4つの指導が紹介されています。しかも指導者と子どもたちの会話形式で書かれているので、具体的な指導の方法がとてもわかりやすくなっています。指導のきっかけとなる子どもたちの実態も書かれているので、それを参考にして、何を指導すればいいのかを決めることができます。
 
 もちろん、本の通りに使うことも可能ですが、10分で終了するのはちょっと無理な場合もあるようです。時間があるときは本を参考にし、時間がないときはポイントだけを使う、という方法をとるといいでしょう。また、手作りの教材を付け足して行えば、よりわかりやすく短時間でも十分な効果を得ることができます。

 実際にポケット小中学校で指導した、10分程度で実施できる指導をこれからいくつか紹介します。どの学年で実施するのがいいかは、皆さんの目の前の子どもたちの実態に合わせて決めて下さい。

「第Ⅰ章 1,心臓はきょうも元気だ」  
 今保健室にある体重計はほとんどがデジタルですが、もし天秤型の体重計が残っているようであれば、ぜひ子どもたちと一緒にわいわい言いながら、どうやったら体重計の針が止まるか、やってみてください。子どもたちは実に様々な「針を止める方法」を考え出してくれます。

 本では、体重計の針が心臓の鼓動を反映しているところで終わっていますが、私はもう少し心臓の話をします。

ミルミル:みんな、グーを作ってみて。
 子ども:(グーを作る)
ミルミル:それがみんなの心臓の大きさです。
     心臓は胸の真ん中からちょっと左にずれたことろにあるんだよ。

 子ども:こんなに小さいの?
 子ども:これで体重計が動くんですか?
 子ども:え~っ、ウソみたい!
ミルミル:そうだね。でもこんな小さな心臓が、体重計を動かしているんだよ。
               
それだけ心臓の動きはパワーがあるって事だよね。
               
どのくらいのパワーかというと、みんなの首のところに太い血管が通っているんですが、
               
もしこれが切れてしまうと、血が2メートルくらい吹き飛ぶそうなんだよ。
               
2メートルってこれくらいです。(2メートルの紙テープを伸ばしてみせる)
 子ども:長い!
 子ども:すげえ!
 子ども:刀で切ったらそうなるの?
 子ども:わたし、テレビで見たことある。びゅって飛んでたよ。
 子ども:やだっ、気持ち悪い。
 子ども:(何人かは思わず首に手を当てる)
 子ども:でも、切られても血が出ないドラマもあるよね。
                
出ないときもあるってこと?
 子ども:そんな訳ないよ。テレビだからだよ。
                
実際に切ったら出るんだよ。
ミルミル:そうだね、テレビはあくまで創作だからね。
     実際とは違う
表現はたくさんあります。
     でももし実際にけがしたら大変なことになりますよ。 
     それだけ心臓はすごい勢いで血液を押し出しているんです。
   子ども:そうか、だから生きていられるんだ。
 子ども:心臓ってすごいね。

「第Ⅰ章 11,もしも汗が出なくなったら・・・」
 この指導は、保健室での養護教員と子どもの会話として書かれていますが、そのままショート指導として学級単位での指導に使えます。
 
 本の導入は「どうして汗なんか出るんだ」という子どもの疑問になっています。でも養護教員に都合よく子どもが疑問を持ってくれるわけではないので、導入を次のような形にしてみました。
ミルミル:では今日は算数の勉強です。
 子ども:え~っ!
 子ども:からだの勉強じゃないの?
ミルミル:残念。では問題を言いますよ。
     私たちのからだは汗を1リットルかくと体温を12度下げることができるそうです。
     暑い夏は、平均2.5リットルの汗をかくそうですが、
     その汗で体温を何度下げているでしょうか。

 子ども:え~。(と言いつつ、必死に頭の中で計算している)
   子ども:わかった。30度!
ミルミル:30度。いいですか?
 子ども:いいよ。正解。
ミルミル:もともと体温は36度あるよね。2.5リットルの汗で体温を下げているとしたら、
     もし汗が出なかったら、体温は36+30で、66度まで上がる可能性がある、
     ということになります。では、体温計は何度まで計れるんだろう。

 この後は本の通り、体温計が42度までしか目盛りがない(デジタルも同じで、42度までしか表示しません)こと、それをこえてしまうと脳が壊死してしまうことなどを、会話を通して子どもたちの経験や既成概念と結びつけていきます。汗の役割は熱中症に結びつけて考えさせることもできるので、暑い夏には重要な指導です。

「第Ⅱ章 2,からだの中の“トウフ”のはなし」
 この指導は、身近にあるものを使って脳の模型を簡単に作ることができる、見てわかりやすい指導になっていて、子どもたちにはとても好評です。「くも膜下出血」などの用語を、家族や親戚の病名として聞いたことがあるという経験がある子もたくさんいますから、そういった病気の理解にも繋がります。
 
 また、小学校高学年以上で実施すると、膜や水に何重にも守られている脳の様子から、胎児の様子を連想する子どももいて、さらに思いが広がっていくようでした。

 ポケット小学校の子どもたちは、ほとんどが「人間の命を左右するのは心臓だ」と思っていたので、この指導で脳の果たす役割を初めて知ります。「だから自転車に乗る時にヘルメットかぶるんだ」「先生が、冬に手をポケットに入れて歩くと危ないって言った意味がわかった」など、実生活に結びつく指導にもなっていきます。ちなみにポケット小中学校は、雪国にあります。

「第Ⅱ章 3,魚を見直して給食を楽しく」
 この指導には、自作教材を作りました。

 必要なもの
  ①理科室にある200ミリリットルのメスシリンダー 2本
  ②粉ゼラチン 1袋
  ③円柱形のマグネット  赤、白、黄色、多数
  ④水
  ⑤大きめのビーカー、手を拭くタオル

 作り方
  ①粉ゼラチン1袋で、ゼラチンを作ります。
  (前日にやっておくと便利)

  ②メスシリンダー1本には④の水を入れます。
  ③もう1本のメスシリンダーには、砕いたゼラチンと水を
   適宜入れ、③のマグネットの落下ス
ピードが遅くなるよう
   に分量を調節します。ゼラチンをたくさん入れると落下スピードは遅くなりますが、
   入れすぎると詰まってしまうので、そこは何度か試しながら決めましょう。

    
 さてこの2本のメスシリンダーは何かというと、いうまでもなく「血管」です。赤と白のマグネットは赤血球と白血球、黄色は血小板です。子どもたちの実態によっては、赤と白の2種類だけでもいいでしょう。もちろん、ゼラチン入りの血管は、水だけの血管より流れが悪くなるので、ゼラチンが血液中の豚や牛の脂肪分、ということになります。

ミルミル:昨日、我が家では友人を招いて、バーベキューパーティーしたんです。
     久しぶりに豚肉や牛肉をたくさん食べておいしかったなあ。
     担任のサトウ先生は、夕べご飯のおかずは何でしたか?

 担 任:いいな、バーベキューパーティー。
     わたしは夕べサンマの塩焼きでした。
     (もちろんこれは事前に打ち合わせをしてあります)

ミルミル:では(2本のメスシリンダーを出して)こちら(水だけ)が担任のサトウ先生の血管、
     こちら(水とゼラチン)が私の血管ですね。

 担 任:え、何か違うんですか?同じように見えるけど・・・。
 子ども:こっち(水とゼラチン)が、なんだか違うよ。
 子ども:え、どれどれ?同じに見えるけどな・・・。
ミルミル:同じかな?違うかな?では、みててくださいね。
     担任のサトウ先生の血管の中はこんなふうに(磁石を4,5個落とす)
     赤血球や白血球が流れていますね。
     では、ミルミル先生の血管は(磁石を2,3個落とす)どう?

 子ども:あれ?なんか違う。
 子ども:ゆっくりしか落ちていかないよ。
 子ども:途中でくっついちゃった!
ミルミル:(子どもたちの様子を見ながら、
      それぞれのメスシリンダーに繰り返し磁石を落としていく)

 子ども:なんで違うの?
 子ども:食べたものが違うから?
ミルミル:お、素敵な意見がありましたよ。
     食べたものが違うとどうして血液の流れに違いができるのかな。

 子ども:う~ん。わからない。先生、ヒント。
ミルミル:こちら(水とゼラチン)の血管の中には(大きなビーカー等に中身を開ける。
     その時、手にゼラチンをつかんで見せる)こんなぐちゃぐちゃしたものが入っています。
     これは、私が食べた豚肉や牛肉に含まれる油、つまり脂肪分です。

 さて、ここから先は残り時間と相談です。豚と牛、鶏、魚、人間の体温を提示し、子どもたちの気づきを待ちます。なかなか意見が出ないときは、普段目にしている豚肉や牛肉を思い浮かべて(実物を持ち込んでもいいでしょう)、それらの脂肪分は温度が低いと固まってしまう性質を持っていることを伝えると、「そうか!わかった!」という反応が出てきます。体温を伝えただけで脂肪が固まることに気づくこともあれば、そうでないときもありますので、あくまで子どもたちの頭の中を想像しながら、一方的な指導にならないように進めていきます。

 「だからバーベキューの時、野菜食べろって言われるのか」「魚あまり好きじゃないけど、からだには必要なんだね。う~ん、少しは食べてみようかな。」そんな感想がでてきます。10分の指導では、これくらいが限界でしょうか。

 ただ、魚の脂肪がいいからと言って「サプリを飲もう」という感想は、そのままにしないことにしています。私たちの指導はあくまでからだを学ぶことが目的で、商品宣伝ではありません。サプリは化学物質であることや、副作用もきちんと書かれていることなどの事実も伝えることにしています。

 
「第Ⅲ章 5,みんなで遊ぼう! 『からだの中の救急隊』ごっこ」
 この指導に書かれている「絆創膏が傷を治すと思っている子ども」は、今でもきっと全国にいるでしょうし、養護教員としては、歯がゆい思いをする一場面でもあります。今は絆創膏も様々な種類があり、湿潤療法などかつてとは全く違った治療方法も用いられるようになりました。でも、からだが傷を治す仕組みは、子どもたちにとってとても身近な現象ですので、ぜひ知っておいて欲しいことの一つです。

 本の中の指導は、教室の床に書いた全身の絵の上で、学級のたくさんの子どもたちが動き回るようになっていますが、短時間での指導ではこの方法は難しい点も多いのです。そこで、サイズを縮小することにしました。保健室の長机の上に段ボールを使ってU字型に血管を作ります。その中を走るのは、ミニカーのパトカー(白血球)、救急車(血小板)、ダンプカー(赤血球)です。糸のようなものは、実際に糸を使います。ばい菌はスポーツカーです。

 ここで私が配慮しているのは、ばい菌を凶悪な犯人にしないことです。ばい菌、つまり私たちのからだに住んでいたりくっついていたりする細菌は、全てが人間に害をなすものではありません。むしろ人間のからだは様々な細菌と共生しながら、その命を保っている部分だってあるのです。だから「ばい菌=全て悪」というイメージを持たせることは、間違った知識に繋がる可能性があると私は考えています。

 ミニカーの操作は、担任と希望する子どもたちに手伝ってもらいます。段ボールの壁は、一部を切っておいて傷口にしておきます。ばい菌とパトカーを、最初に担任と養護教員が担当すると、後は子どもたちで大丈夫です。時間のある限り子どもたちが順番に参加できるようにし、時間がないときは休み時間に開放します。

 そして最後に、「今もみんなのからだの中を赤血球や白血球、血小板がパトロールしてくれているんだよ。」と説明すると、子どもたちはちょっと照れくさいような、誇らしいような表情を浮かべてくれるのです。

  もちろん、この後傷の手当てに保健室に来た子どもたちに、パトカーや救急車の働きを繰り返し話すことも忘れないでくださいね。

ショート指導をするときに

2018年8月9日

カテゴリ:ショート指導

 夏休みや年末年始休みなどの長期休業明けに、身長や体重を測定する学校も多いと思います。そして、測定後に短時間の保健指導の場を設定している場合もあるでしょう。ほけんだよりや健康診断の事前指導(2019年春に投稿予定)は、担任の先生方にお願いしますが、身長体重測定後の保健指導は、養護教員が直接指導できる、数少ないチャンスです。 さらに、私が作った指導に、子どもたちがどのように反応したかを直接知ることができる、貴重な機会でもあります。とかく長々と説明したくなる気持ちをぐっと抑え、「からだの学習」の理論に則って、10分以内に終わる指導を「ショート指導」として提案してみたいと思います。                  

  「理論編」でもお話ししましたが、指導の「ネタ」はいろいろなところに落ちています。そして「ネタ」を拾ったら、それを「どのように料理するのか」ということが重要になります。

 カレーライスを作って子どもたちに食べてもらうことに例えて、考えてみましょう。最初にタマネギとお肉を炒めて、その後ににんじんとじゃがいも、最後にルーを入れ、「できたよ」と子どもたちに食べてもらうというのがスタンダードな方法ですが、「ネタ」によっては、最初にカレーライスを食べてもらって、「何が入っているかな」という問いを元にみんなで考える、という方法もあります。また、材料だけを最初に見せて、「これでできる食べものは何だろう」と考えることもできます。どんな方法が最も効果的かは、子どもたちの姿や意識を想像しながら決めて下さい。

 ここで紹介する指導は、もちろん自力で作ったものもありますが、市販の本などから選び、さらに手作り教材を加えたり、指導過程を変更したりして作ったものもあります。最初から最後まで自力で作り出さなくては・・・と、頑張りすぎなくてもいいと思います。息切れしてしまっては大変ですからね。

 市販のものから選ぶときのポイントは、子どもたちの実態と合っているかどうか、ということです。
私が参考にした本を紹介しましょう。

     ◎「わくわく保健指導 1年間」   
        小野礼子 近藤真庸 山梨八重子 戸野塚厚子 中村ひとみ 著
        住田 実編著                       (日本書籍)
    ◎「授業書的発想による保健指導の教材づくり」
        数見隆生 著                      (ぎょうせい)
    
 他にもたくさん素敵な本がありますので、ぜひ探してみて下さい