中学校 科学的な根拠は?
子どもたちと学習する前に皆さんに質問です。
次の1~8のうち、「信頼できる」と考えられるものはどれでしょうか。
1,同じ条件で実施した20回の実験のうちの1回の結果
2,同じ条件で実施した20回の実験のうち同じ結果の19回の結果
3,違う条件で実施した20回の実験のうち20回の結果
4,20人を対象にした実験の結果
5,1万人を対象にした実験の結果
6,知り合いの〇〇さんが言っていた内容
7,ある1人のお医者さんが話した内容
8,有名な科学雑誌に載っていた内容
9,研究機関などがたくさんの実験結果を集めて査読し、様々な検討をした結果として発表した内容
もちろん、皆さんはおわかりですよね。最も信頼できるのは9,いわゆるシステマティック・レビューと言われるものです。その次は8でしょうか。ただ、学会で発表されたものと、査読されて著名な科学雑誌に載ったものとは、また信頼性に違いがあるようです。
1や2は、テレビCMなどでよく見かける実験方法ですが、科学的(医学的)な実験は、その再現性が信頼性を大きく左右します。20回実験して、19回は効果がなかったが、1回だけ効果があるような結果になったので、その1回の実験を使って「効果がありますよ」という宣伝がなされた、という事例もあるそうなのです。
本当に効果があるのなら20回の実験中多くの回数で「効果あり」の結果が出なければいけないわけで、これが「再現性」です。
さて、では子どもたちが考えやすいように1~9を3つのグループにわけて、100メートルのタイムを取る、という具体的な場面に置き換えながら検討してみましょう。
イラストや文字カードなどを準備して、わかりやすいよう工夫してみてください。
T:今日は皆さんの好きなクイズです。
S:(やったぁ、ヨシ!などの声)
T:では、最初の問題です。体育祭の組を決めるために、Aさんの100メートルのタイムを取ることにしました。正確なタイムをとるために、Aさんに5回、それぞれ別の日に100メートルを走ってもらいました。次の3つの方法のうちで、Aさんのタイムとして正確なものはどれでしょう。
1,グラウンドで走った5回のうち、スタートダッシュを失敗してしまった1回のタイム
2,グラウンドで走った5回のうち、失敗しなかった残り4回のタイムの平均
3,グラウンドで2回走り、上り坂で3回走ったタイムの平均
さて、どのタイムがAさんの100メートルのタイム?
S:2番!!
T:ちょっと簡単すぎたか。そうですね。1のように失敗した1回のタイムではなく、失敗しないで走った4回の平均なら大丈夫だよね。しかも2は4回も走っているので、1回しか走っていない1は、あてになりません。3も5回走っているけれど、どうしてダメですか?
S:グラウンドと坂道ではタイムが違ってくる。
T:なるほど。平らなグラウンドと坂道では、条件が違います。同じ条件でなければ、Aさんの100メートルのタイムは正確に出てきません。
では、次の問題です。中学2年生の100メートルの平均タイムを取りたいと考えました。20人の中学2年生に走ってもらい、その平均を出すのと、1万人の中学2年生に走ってもらって平均を出すのとでは、どちらが正確でしょう。
S:もちろん、1万人です。
T:これも簡単でしたね。ある答え、つまり中学2年生の100メートルの平均タイムを取るには、できるだけたくさんの人に走ってもらった方が、正確な答えが出ますよね。では、最後の問題です。Aさんは体育祭でできるだけ早く走りたいと考えました。そこで、速く走る方法を知りたいと思ったのですが、次の4つのうち、一番信用できるのはどれでしょうか。
ア:友達のBさんが言っていた方法
イ:SNSでどこかのおじさんが言っていた方法
ウ:陸上競技の専門書に載っていた方法
エ:速く走る方法を研究している専門家が集まって、速く走る方法についての研究を世界中から集め、その内容を検討した上で出した結論
さて、一番信用できるのはどれでしょう。(この後は挙手でそれぞれの意見を確認したり、その理由を発表してもらったりしましょう)
T:どうしてこんなクイズをしたのかというと、からだや健康に関するたくさんの情報のうち、本当に信用できる情報を見抜く力を皆さんに持ってもらいたかったからなのです。テレビや雑誌、SNSなどにもからだや健康に関する情報はたくさんありますよね。そういった情報を受け取るときに、信用できるものと、簡単に信用しないで他の情報で確かめた方がいいものとを区別できるようになってください。
では、クイズからわかったことを最初からまとめてみましょうね。
最初の問題でわかったのは、1回だけの結果ではなく、何度も繰り返して同じような結果が出た方が信用できると言うことですね。しかも、条件を同じにして。条件が違えば、もちろん結果は違ってしまいます。二つ目の問題でわかったのは、できるだけたくさんの人の実験の方が、正確な答えが出る、ということ。でもこれも条件が違っていたら、正確とは言えなくなるので、同じような条件であることが大切です。そして最後の問題ですが、特にからだや健康の分野では、エの方法で出された結論が最も信用できる答えと言われています。でも、この方法で出された結論は、そう多くはありません。なので、ア~ウのような情報の場合は、それが本当に信用できるかどうか、しっかり調べる必要があります。聞いたことをすぐに鵜呑みにしない、ということが一番大切なのです。SNSやYouTubeなども同じです。今日話したことは、信用できるものとそうでないものを区別するための基本です。他にも方法はありますので、皆さんも考えてみてくださいね。