母性本能はあるのか(性の学習 中学校3年生)

2023年3月13日
カテゴリ:ショート指導

本能というからには、人間がそもそも持っているもの、特に「母性本能」は女性にのみある・・・・と長いこと言われてきましたが、そんなものはない!というのが最近の研究結果です。
では、一体どこから生まれてきたのでしょうか。
それを、中学生と一緒に考えてみましょう。

なぜ中学校3年生の課題に設定したかというと、これから3年生はいろんなところから集まった人と一緒に高校生活や社会生活を送ることになるからです。
社会の中にはジェンダーがいっぱいです。
それに惑わされないように、基礎的な知識を身につけておいてほしいものです。

また、中学校3年生を対象に、出産や育児に関する「講話」を、外部講師に依頼するなどして行う学校も増えています。
その中で出産や育児の科学的側面は学べますので、残ったジェンダーや人権の部分を補足する必要があります。生理学的な側面だけでは「包括的性教育」にはなりません。そこにジェンダーや人権の視点は絶対に必要なのです。

ポイントとなる数字や文章、単語はカードにして黒板に貼ると、わかりやすくなると思います。

参考文献 「母性という神話」 E・バダンテール著  筑摩叢書

 

(出産や育児に関する講話を受けた後であれば、それを導入にしても構いません)

T:さて皆さん、今日はフランスの話をしたいと思います。フランスって、どんなイメージがありますか?
S:おしゃれな国
S:フランス革命
S:自由な国 
T:なるほど。今はそんなイメージの国ですね。では、少し時間を遡って、1780年のパリに飛んでみましょう。日本でいうと江戸時代の後半、2年後に大飢饉が起きたり(天明の大飢饉)3年後には浅間山が大噴火したりしているし、フランスはフランス革命の9年前です。この頃のパリのこどもたちに関するデータが残っています。パリでは、1年間に2万1千人の子どもが生まれると、そのうち親に育てられる子どもは千人、乳母と呼ばれる子育ての専門職に育てられる子どもが千人、残り1万9千人は、里子といってお金を払ってよその家庭で育ててもらう、という環境で暮らしていたのだそうです。ところが、この里子に出された子どもと親が育てた子どもを比べると、里子の子どもの死亡率が、とても高かったんだそうです。なぜだろう。
S:親が育てないから
S:親じゃないから、ちゃんと面倒見なかったから
T:そうかな?子どもって、親以外の人では育てられない?
S:ううん、育てられる。
S:親じゃないと愛情がない。
T:親じゃないと愛情が湧かないの?
S:違う、関係ないと思う。親だって愛情のない人もいるし、親じゃなくても愛情を持って育てられる。
T:そうだね。子どもを育てられるのは親だけとは限らないよね。養子などで実の親ではない家庭でもちゃんと育つし、施設だって問題ない、大丈夫。いろんな環境で、たくさんの人が育ってちゃんと大人になってるんだよ。実は、パリの里子たちが死んでしまった理由は、里子を預かった家庭のほとんどが貧しい家庭で、1日中働かないと生活するお金を得られないような厳しい条件のところだったんです。働くのに精一杯で、預かったけれど子どもの面倒を見る余裕がなかったんだね。もちろん他の条件もあったと思います。病気になっても当時は原因がわからなかったり、治療法がなかったりしたしね。でも、このこどもが死んでしまうことについて、フランスの人たちは「これはまずい!」って思うようになった。そこでこんなことを言い出した。「神様はあらゆる生き物の心の中に、子どもに対する無意識的な愛をすり込んだ。女は全ての動物たちと同様に、この本能に従う」これを日本語にすると「母性本能」だね。全ての女の人は生まれながら子どもに対する愛情を持っていて、子育ては女性の本能である、ということになるかな。だとすると、子育ては女の仕事、ということになるね。さてどう思います?
S:そうだと思う。女の人の方が子育てに向いている。
S:男は働いているから子育ては無理
T:女の子たちはどう思う?
S:今は父親も子育てするから違うと思う
S:本能はあるかもしれないけれど、一人で子育ては大変。
S:母性本能があるのなら、どうして虐待なんて起きるのかわからない。
T:そうか、本能なら食欲と同じでみんなにあるはずだものね。じゃあ、ないのかな。
S:でも子どもを産むのは女の人だから、育てるのも女の人が向いていると思う。
T:女の人に母性本能があるから?
S:うん
(ここは、時間の許す限り生徒の意見が聞きたいところです)
T:いろんな意見が出ましたね。1780年代に言われた「母性本能」は、270年経った今はどうなっているかというと、女性には母性本能はない、ということが科学的にわかってきました。つまり、生まれつき女の人が子育てに向いているわけではない、ということです。子どもと子育てする人の愛情関係は、一緒に暮らしていく中で育まれていくものだ、と今は言われています。そこに女も男もない。場合によっては血のつながりも必要ないし、集団で暮らす施設だっていいんです。将来皆さんが大人になって、もし自分の子どもを持つことがあったら、子どもとたくさん触れあっていい関係を作っていってくださいね。でも子どもを持つか持たないかは、自分で決めていいことですからね。