中学校 細菌、ウイルスとどうつき合う?

2020年10月15日
カテゴリ:その他

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴って、細菌やウイルスを敵対視する傾向が強くなっているような気がしています。新型コロナに感染した人を差別したり、医療従事者の子どもを拒否したり、「感染症やっつけようプロジェクト」などという名称までできています。この名称を聞いて、HIV感染症が発見されたときの「エイズ撲滅キャンペーン」を思い出しました。あの時は感染した皆さんが、「私たちは撲滅されなければいけないのか。存在してはいけないのか」と声をあげたのです。一方的な見方は、誰かを傷つけることになりかねません。
 確かにウイルスや細菌は、病気を引き起こす場合があり、現在のように新型コロナウイルス感染症が流行しているときは、予防を第1に考える必要があるのでしょう。しかし、自然界には数え切れないほどのウイルスや細菌がいて、病気のもとになるのはそのごく一部です。実際は、人間とウイルスや細菌は、自然の中で交流して共生しているとも言えるのです。最近の研究では、母胎が胎児を攻撃しないシステムを獲得したのは、ウイルスの遺伝子の一部を、人間の遺伝子に取り込んだからだ、ということもわかってきています。

 病気の予防と同時に、共生するその関係を理解した上で、細菌やウイルスとどうつき合ったらいいのかを考える時間を、子どもたちに提供したいと考えました。対象は中学生です。

 

T:最近、私は考えていることがあるんです。なかなか答えが見つからなくて・・・。みんなはどう考えるかな。相談に乗ってくれる?
S:いつもと逆だね。いつもは保健室で先生が僕たちの相談を聞いてくれるのに・・・。
T:そうだね。今日はみんなが保健室の先生だね。その悩みはこんなことなんです。新型コロナが流行ってから、みんなは新型コロナにかからないように何をしています?
S:手洗い
S:アルコールで手とか机とか消毒しています。
S:三密にならない、友達ともあまりくっつかない。
S:マスクをする
T:そうだよね。それは、新型コロナウイルスがみんなのまわりからいなくなるようにしているんだよね。つまり、新型コロナにかからないために、ウイルスはいない方がいいからアルコールや石けんで殺菌した方がいい。ウイルスは「殺菌」とは言わず「不活化」というのが正しいのですが、今はまとめて「殺菌」って言いますね。ところがね、アルコール消毒や石けん手洗いをすると、皮膚の表面にいる新型コロナウイルス以外の細菌やウイルスも殺してしまうことになります。その中には、実は私たちのからだを守る役割をする細菌もいるんです。からだを守る細菌が死んでしまったら、どうなる?
S:守ってもらえなくなる。
T:そうなりますね。いいんだろうか、と私は思ったんです。コロナウイルスから守るために、本来あるからだを守る力を、壊してしまう・・・それでいいんだろうかって。みんなはどう思う?
S:う~ん、難しい
S:でも今は新型コロナを予防しなきゃいけないから、仕方ないと思う。
S:アルコール消毒と手洗いをしすぎない。
T:しすぎないって、どのくらい?
S:う~ん、よくわからない。
T:だよね。私もよくわからない。科学的に「これくらいの回数ならアルコール消毒してもいい」っていう答えもでていません。それだけじゃないんだよ。皮膚と同じように、口の中や喉、気管などにも細菌がいて、からだの外から入ってくる細菌やウイルスから私たちを守ってくれる役割をしている。だから外から入ってくる細菌を殺してしまうようなものを使うと、口や喉、気管の細菌も殺してしまうので、病気を予防できなくなることもある。さらにさらに、血液の中には、「免疫」といって、やっぱり外から体内に入ってくるウイルスや細菌から私たちを守ってくれる働きがあるんです。この「免疫」は、普段から体内に入ってくる細菌やウイルスと戦っていて、その度に相手の情報を集めたり、武器を作ったりして、戦うたびに強くなっていく、という特徴も持っている。でも、コロナウイルスをなくそうとして、一緒に身の回りのウイルスや細菌を全部殺してしまったら、この「免疫」は、なかなか強くなっていかないことも考えられる。
つまりね、コロナウイルスをなくそうと思ってどんどん消毒すると、からだにとって必要な細菌も殺菌されてしまって、からだを守る力が弱くなっていく可能性がある、ということなのです。果たして、「細菌やウイルスをやっつけよう!」と言って、何でもかんでも殺菌してしまっていいのだろうか・・・と私は悩んでいるんです。どうしたらいいかな。みんなはどう思う?

ここまで進んだら、あとは自由に生徒の意見を聞いてみましょう。間違ったイメージを持ったり、他の人を傷つけるような発言は修正しますが、それ以外はどんなふうに考えるか、じっくり聞いてみましょう。答えを1つにまとめる必要もありません。

T:難しい問題ですね。答えが出ない。今はとりあえず、新型コロナを防ぐ行動をとるしかない。でもその時にからだの仕組みも一緒に考えて、できるところはからだの仕組みを活かして欲しいなと思います。コロナにかからないように予防もしながら、頭の中にからだ本来の働きのことも入れておいてください。はっきりした答えはでないけれど、みんなの意見を聞いて、今のところそんなふうに考えるしかないかなと私は思いました。何かいいアイデアがあったら、保健室に教えに来てください。