うがいについて

2020年10月6日
カテゴリ:その他

 うがいは日本人独特の行為です。特に感染予防のうがいは、外国ではほとんど行われていないので、その研究も十分ではありません。そもそも細菌の存在が確認されるようになったのは19世紀。ウイルスは20世紀に入ってから。顕微鏡が発明され、性能がよくなるにつれてわかってきたことです。ですから、日本人が科学的根拠がないまま、うがいの効果を信じてきたこともある意味仕方のないことなのかもしれません。

 しかし今は21世紀。そろそろ科学的根拠に基づいたうがいの効果について考えてみてはどうでしょう。2020年現在のミルミルが集めた情報をまとめてみました。

1,うがいの歴史
 うがいが日本の歴史に最初に現れるのは、平安時代です。ミルミルの大好物「京都」に都があった時代、うがいは「神仏に祈りを捧げる前に、口の中を清める方法」だったようです。よく神社やお寺に行くと、「手水舎(ちょうずや)」があり、そこで手を洗い、口をすすいでからお参りしますよね。お参りの時は、両手を合わせ、口で祈りの言葉や経典の一部を唱えるため、不浄のものを清めるため手を洗い、口をゆすぐのだそうです。きれいにしてからでないと、神様にも仏様にも失礼、ということでしょうか。

 そういえば、相撲の時も土俵際でうがいをしますよね。相撲は平安時代には宮廷行事で「相撲の節会(すまいのせちえ)」というのがあったということですから、神事が起こりの相撲で清めの行為としてうがいが残っているのも納得です。

 うがいという言葉も、「鵜飼」が語源だ、という説もあるようです。鵜飼は「古事記」や「日本書紀」にも記載があるということですので、平安時代はすでに行われていたことになります。

     その後うがいが出てくるのは、室町時代の国語辞典「下学集」。著者は東麓破衲、山脇道円。「鵜飼(うがひ)嗽(くちすすく)也」とあります。
 また、北条早雲や徳川家康もうがいについてふれているようですが、内容やその意図は確認できませんでした。

 そして、日本国民がこぞってうがいをしたのは「スペイン風邪」の流行時です。「スペイン風邪」は、第1次世界大戦により、ヨーロッパやアジアに広がりました。スペインの名誉のために付け加えれば、そもそもこのインフルエンザの流行は、スペインから始まったものではありません。最初の発生はアメリカです。とんだ濡れ衣!ですよね。この時のインフルエンザの流行は、その後の第2次世界大戦の下地を作った、とも言われています。

 日本では、1918年から流行が始まりました。この時、内務省衛生局は、日本だけでなく世界中の流行状況や対策についての詳細な記録を残しています。この記録はその後、平凡社東洋文庫から「流行性感冒」というタイトルで出版されていますので、興味のある方はどうぞ。
 そして当時国が作った文書の中に、「かからぬには」として「四、塩水か微温湯にて度々含嗽せよ、含嗽薬なれば尚ほ良し。食後、寝る前には必ず含嗽を忘れるな。」と書かれています。さらにポスターも作られました。うがいをする女性と男の子の絵に、「含嗽せよ 朝な夕なに」というキャッチコピーが載っています。当時の記録映画には、家の外で10人ほどの人たちが一緒にうがいをする姿が残っています。この「スペイン風邪」の予防を通して、全国民に予防行為としてのうがいが定着していったのでしょうね。

 そしてそれは、学校教育などを通して、今のように「病気の予防にはうがい、手洗いが効果的」というイメージを形成したのでしょう。

2,ウイルス感染症の予防効果
 「うがいのウイルス感染症に関する予防効果は証明されていない」
最初に答えを言ってしまいましたが、うがいがウイルス感染症を予防するという「エビデンス(証拠)」はありません。

①「一般的な上気道炎(普通の風邪)」における予防効果はあるとする研究(京都大学の川村孝教授らや、浜松医大の野田龍也助教ら等)はありますが、反対にないとする研究(カナダの大学生を対象とした研究など)もあり、「エビデンス」はありません。
 特にインフルエンザについては、その効果が確かめられた研究はなく、世界的にもインフルエンザにおけるうがいの効果は科学的根拠がないとされています。
 また、川村教授の研究では、そもそもインフルエンザは調査対象から除外されていますし、ヨードうがい薬(ポビドンヨード液)を使用した場合は、予防効果はなかったと結論されています。

②インフルエンザの場合、感染力が強く、咽頭にウイルスが付着すると、たちどころにウイルスが体内に侵入するため、数分に1回うがいをしなければ、ウイルスを吐き出すことはできないことになります。それって、現実には無理ですよね。ですから、インフルエンザに関しては、「効果が無い」というエビデンスが成り立ちそうな気がミルミルはするのですが。

③ウイルス感染症の専門家である東京大学医科学研究所の河岡義裕教授は、「うがいは喉の上の一部を洗うだけで、鼻や喉の奥は洗えないから、インフルエンザの予防には効果がない」と断言しています。ということは、インフルエンザ以外の病気でも、喉についたウイルスを十分吐き出すことはできない、ということになります。

④首相官邸ウェブページでも「うがいのインフルエンザ予防効果については科学的に証明されていません」と掲載されています。

⑤厚生労働省作成のインフルエンザ予防ポスターは、以前はうがいの文字がありましたが、今は除外され、「マスク、手洗い」だけになっています。

⑥国も厚生労働省も日本医師会もそしてWHOも、うがいはコロナ感染症の予防行為として勧めていません。その理由は「予防効果が科学的に証明されていない」からです。コロナウイルスは、インフルエンザウイルスと違って舌に受容体があり、そこから細胞内に入り込むことがあると言われています。だとすれば、インフルエンザ以上にうがいの効果がないことも考えられます。ただし、コロナウイルスがどのくらいの時間で細胞内に入り込むかは、まだわかっていません。

 

3,新型コロナウイルス感染症へのうがいの効果
エビデンスはないが、コロナウイルスがだ液に含まれることを考えると、うがいで感染を広げる可能性はある。
 新型コロナウイルス感染症については、新しい感染症のため、まだまだ研究が進んでいないので、「エビデンス」と言えるようなものは多くはありません。まだ「予想」や「可能性」の部分が多いのです。
 感染経路についても「飛沫感染」なのか「接触感染」なのかの証明はほぼ不可能です。同様に、うがいによる「飛沫感染」も「接触感染」も今の段階では証明できませんし、エビデンスもありません。しかし、コロナウイルスがだ液に大量に含まれていることから考えると、当然うがいで感染を広げる可能性は十分考えられ、またそれを指摘する声もたくさんあります。
  
①唾液にはPCR検査の検体になるくらい、多量のウイルスが含まれています。そのためうがい液にも多量のウイルスが含まれていることになり、それを水屋に吐き出すと、水屋には多量のウイルスが飛び散ることになります。近くにうがいをした本人以外の者がいれば、直接飛沫をあびる可能性があり、さらに飛び散った飛沫がエアロゾルとなって空中に漂う可能性もあります。厚生労働省は「エアロゾルで感染する可能性がある」ことを認めています。
 また、手洗いもウイルスを水屋に流しますが、多くの場合手洗いは石けんを使うので、ウイルスは不活化されます。生きたまま大量に吐き出されるうがいとは、全く違います。

②うがいや手洗い後の水屋には、多くのウイルスや細菌が付着していて、それを手で流したり、紙等で拭き取ったりすることで、再度手を汚染してしまいます。うがいをした後の水屋も、ウイルスに汚染されているのです。

③こういった危険性のあるうがいを学校や保育園で行えば、感染が広がる可能性もあります。水うがいだけでなく、集団フッ素洗口でも同様の危険性があります。家庭で行えば、家庭内感染を広げるかもしれません。実際に「一生懸命うがいをしていた」集団で、クラスターが発生した事例も複数あります。

④新型コロナウイルス研究者である道北勤医協旭川北医院医院長の松崎道幸氏は、「せっかくマスクや咳エチケットをしていても、うがいをしてウイルスを飛散させては何にもならない」と警鐘をならしています。

⑤8月5日フジテレビの番組「直撃LIVE グッディ」に出演した北海道大学病院豊嶋崇徳医師は「うがいをするとだ液の中のウイルスが、ばっと散らかる。うがいは勧めない」「みんながみんなうがいして、菌をまき散らすことをやって欲しくない。」と発言しています。

⑥福井大学医学部附属病院医師岩崎博道氏は「うがいは、そんなに大きな効果はない」「(ポビドンヨードうがいについて)あまり参考にできる話ではない。うがいで飛沫が飛ぶ方が心配」と発言しています。

いかがですか?今の時点で、これだけの科学的な事実と、エビデンスはなくてもそう考えられる「可能性」が明確になっています。
朝日新聞の記事に「うがいは国内では学校などで広く呼びかけられる習慣」という一文を見つけました。その通り、日本人が「うがいには予防効果がある」と信じ込むその一端を、学校が担ってきたのは言うまでもありません。だとしたら、同様に学校は、「科学的なうがいの真実」も、きちんと伝える義務があるのではないでしょうか。それが、学校教育と学校保健の役割なのではないかと私は思っています。子どもたちのために。