「う歯予防に効果」は問題がいっぱい!
以前「新着情報」で、科学的見解の信頼性を表にして載せました。それによれば最も科学的に信頼できるのは「システマティック・レビュー」でした。
う歯の予防行為としてのフッ素洗口にも、この「システマティック・レビュー」が出されています。それによると、「フッ素洗口のう歯予防効果は、26%程度」とされています。つまり、4本う歯になれば、それを3本に抑えられる、ということになります。これが「システマティック・レビュー」の結論です。ただし、この結論の中には、歯みがきや食生活の影響は反映されていません。現実には子どもたちは歯みがきや食生活の影響を受けますので、この結果がそのまま当てはまる訳ではありません。
でも、とりあえず「システマティック・レビュー」ですので、それを基準に考えてみたいと思います。4本のう歯が3本になるのですから、今の子どもたちは4本以上のう歯があるのでしょうか。
残念なことに、12歳児の一人あたりう歯保有数は、2020年度で0.68本です。つまり、4本どころか1本にも満たない。0.68本の26%は0.17本。実感できるわけではありませんよね。意味あるんでしょうか?
さらに、日本は市販の歯磨剤に900~1500ppmのフッ化物が含まれていて、その歯磨剤を使っている子どもについては、「フッ素洗口を行っても効果の上乗せは7%しかない」というのが「システマティック・レビュー」の結論です。家庭での歯みがきでフッ素入り歯磨剤を使っている子どもが、学校でフッ素洗口をしても7%の効果しか増えない、という訳なのです。
にもかかわらず、「フッ素洗口はう歯の予防に効果がある」との宣伝文句で、多くの小中学校、幼稚園や保育所でフッ素洗口が行われています。
では、「システマティック・レビュー」のような結果が、実際の生活の上ででてくるのでしょうか。
残念なことに、実際の子どもを対象に、日本国内できちんと条件を整備した上で実施された科学的調査は存在しません。本当に効果があると言うのなら、ぜひきちんとした条件を整えてデータを取ればいいのに、と思うのですが、フッ素洗口を推進する団体にその気配は全くありません。「効果がある」という人たちが示すのは、学校でのフッ素洗口をいち早く取り入れた新潟県などの例ですが、これは他県とは比較になりません。
というのは、新潟県内には、学校内に歯科診療台を設置して定期的に歯科医師が来校し、シーラント処置をしている学校があったり、デンタルフロスの指導や歯の相談会の開催など、他県ではなかなか実施できないような活動が盛んに行われているからです。これでは、う歯減少の原因がフッ素洗口なのか歯みがきなのか食生活なのかシーラントなのか区別がつきません。複合的な活動の成果を、全て「フッ素洗口のおかげ」にしてしまっているのでは、新潟県の状況がフッ素洗口の効果を証明しているとは、どう考えても言えません。
そこで、A県で行われていたフッ素洗口の様子に着目してみたいと思います。
A県では、比較的規模の小さい小学校数校(対象校の児童合計は500名前後)で、6年間フッ素洗口が実施されました。
その際、フッ素洗口の効果をできるだけ正確に把握するため、フッ素洗口開始前と実施中の条件をできるだけ同じにしました。
例えば、教職員はフッ素洗口についてできるだけ中立の立場を示し、子どもたちには敢えてフッ素洗口については触れない、歯に関する保健指導の回数や内容は洗口前と同じにする、歯科検診の回数や内容も洗口前と同じように実施する・・・・などです。学校現場でできる条件整備は、これくらいが限界でしょうか。中には、実施希望を取ったところ、ちょうど児童数の半分が洗口を希望し、半数が希望しない、という、願ってもない条件が揃ったところもありました。
さて、結果はどうだったでしょうか。
6年間のデータを比較したところ、フッ素洗口を実施した児童の方が、実施しなかった児童よりう歯が増え、歯肉炎を指摘される等の口腔内の環境も悪化してしまいました。
この結果を重く受け止めた教育委員会は、その後フッ素洗口を中止し、この数校を含めた周囲の小学校全てで昼の歯みがきを推進する、という方向に切り替えたのです。昼の歯みがきが徹底された結果、フッ素洗口を中止した小学校ではう歯の減少が見られたというのです。
フッ素洗口を推進したい方はよく「歯みがきではう歯は予防できない」とおっしゃいます。もちろん、う歯の「全て」を予防することは出来ないでしょう。しかし、フッ素洗口をしたことでう歯が増加し、歯みがきをしたら減少したのなら、歯みがきの効果は、少なくてもフッ素洗口を上回るような気がします。ちなみに新潟県の学校での歯みがきは、95%の小学校で実施されています。
実はこれと同じような結果は、全国いろいろな学校で起きています。
フッ素洗口を実施している学校は、多くの場合洗口と同時に保健指導や子ども・家庭への声がけ、行政や歯科医師の協力の下、様々な活動を同時に行っています。A県でも、他の一部地域で小中学校のフッ素洗口が行われていますが、同時に学校での保健指導や保護者への啓蒙が非常に熱心に行われ、う歯が減少する、ということが起きています。
つまり、フッ素洗口と同時に、学校や家庭、行政がう歯予防に熱心にとり組んだ学校はう歯が減少し、フッ素洗口のみを実施し、保健指導や家庭、行政のやり方は洗口前と同じだった小学校はう歯が減らなかった、ということです。
科学的な信頼性という点から考えると、A県の事例だけでは不十分だとは思います。しかし、その一方で「フッ素洗口をすればう歯は減少する」という言葉も、科学的な信頼性が充分だとは言い難いこともA県の結果でよくわかります。